当院臨床病理科マニュアル
病理部門の主たる業務は、病理学的診断を通じた、各科の診療支援としております。 具体的業務内容は、以下のとおりですが各種手続きについて各位充分熟知して下さい。
1 生検・手術材料の組織診断
基本的に、患者から採取もしくは摘出された組織及び臓器はすべて病理検査に提出してください。
その際に必要な処置を施し、速やかに20%フォルマリン液で固定して組織検査依頼書を添付の上、病理受付に提出して下さい。
依頼書には署名他、記載事項を漏れなく記入して下さい(含提出臓器)。
特に臨床経過並びに所見欄は病理医が診断する上で重要な情報源となりますので、より的確な診断をするために要領良く、
図示等を含め記載を御願いします(例:切除範囲、臨床病期、性周期等)。その際、特殊な略語は使用しないで下さい。
過去の病理組織や細胞診検体があるときはその有無や病理番号を記載して下さい。
特殊な検索(電顕的検索、免疫組織化学等)が必要な場合は、病理に問い合わせて下さい。
診断に支障を来す場合がありますから、無断で摘出材料からの組織採取はしないで下さい。速やかな固定のための割は最低限にし、
不必要な割は入れないでなるべく元の形状を保存して下さい。固定の際には充分量のフォルマリン液を使用し、
小さな検体ビンに無理に押し込めないで下さい。不明な点、不安な点は、処置を施す前に病理に問い合わせて下さい。
2 手術材料等の未固定マクロ写真
手術材料未固定マクロ写真撮影に付きましては、基本的に臨床側で行ってください。どうしても臨床側でできない場合は病理に問い合わせてください。
また、小型手術材料は病理でも撮影できますので、その際は連絡してください。
3 病理にての検体処理
a. 生検鉗子により得られた材料
パンチ、針生検等は色と形をスケッチし、病理標本適性度をa:多いに適性 b:適性 c:不適正を記入する。また、必要に応じて所見を記載する。
b. 内視鏡的粘膜切除及びポリペクトミー材料
写真もしくはスケッチにて色調や形を記載し、断端部や連続性が解るように切り出す。
c. ブロック作製や薄切
生検においてはダブルカット(深切りと共に)にて標本を作製すること。
標本作製には、粘膜面や漿膜面や表皮面に留意し作製すること。
A. 消化管
1. 生検鉗子により得られた材料
小さな検体ですので紛失に注意して下さい。番号を付した濾紙に張り付け、検体ビンに入れて下さい。
特に食道粘膜は剥がれやすいので、注意して提出して下さい。できれば張り付ける方向にも留意し、薄切時、横断方向にならないようにして下さい。
2. 内視鏡的粘膜切除及びポリペクトミー材料
平坦な病変で粘膜下に生食或いはアドレナリン加生食等を注入している場合、切除面に尖刃メス、眼科剪刀、
或いは注射針等で小切開を入れ生食等を排出して下さい。その後ゴム板に無錆針で固定或いは、生検材料同様に濾紙に張り付けて下さい。
できればポリープは切除縁に墨汁、インデアンインクかピオクタニン液等でマーキングして下さい。
3. 手術切除材料
リンパ節を採取し別に固定ビンに入れて下さい。リンパ節採取後ペッツ針をはずし規定の方法で内腔を開き、
口側、肛門側断端及び剥離面が分かり易いようにして、無錆針を用いてゴム板に張り付けて下さい。
粘膜面と固有筋層に大きなずれが生じない様に筋層を把持して広げ、張り付けて下さい。その際自然の襞をなるべく損なわないよう注意して下さい。
腫瘍を通る割線は避けて下さい。小、大網、間膜、腹膜垂等をはずす時に腫瘍の深達度の判定に支障のないようにして下さい。
虫垂は螺旋形にならない様にしてそのまま固定して下さい。
4. 生検鉗子により得られた材料や内視鏡的粘膜切除及びポリペクトミー材料を病理へ提出するときは、
内視鏡看護師と臨床病理科技師により、患者氏名、採取部位、個数を読み合わせ確認すること。
B.肝・胆・膵
1. 肝生検材料
曲がらない様に固定して下さい。電顕検索が必要な時はその場で切り分けるか、全体を生食に入れて病理に持参して下さい。
2. 肝部分切除材料
全体像を写真撮影後、前額断方向に適宜割を入れ曲がらない様大きな固定槽に沈めて下さい。小さな肝内胆管癌の時は病理に御相談下さい。
3. 胆嚢切除材料
肝胆嚢床がわかる様漿膜側で切開して下さい。胆嚢管はホッチキスをはずし損傷しない様開いて下さい。
胆汁をフォルマリン液で洗い流した後ゴム板に無錆針で張り付けて下さい。腫瘍を通る割は避けて下さい。
4. 膵頭十二指腸切除材料
膵臓は自己融解しやすい臓器です。摘出後は速やかな固定作業が必要になります。Vater乳頭部対側で十二指腸を開いて下さい。
十二指腸の後壁側を襞に沿って乳頭部まで切り、この線に沿って総胆管を後方から乳頭開口部まで開いて下さい。
胆嚢は上記と同様に切り開き合流部まで開けて下さい。肝管断端部がわかる様にして、ゴム板に無錆針で固定して下さい。
5. 膵体尾部切除材料
上記と同様の理由で速やかな検体処置が必要です。剥離面を下にしてゴム板に張り付けて下さい。
その際、主膵管から血管留置針外筒等を用いてフォルマリン液を注入しておくと固定がよくなります。脾臓は長軸方向に平行な割を数カ所入れて下さい。
C. 呼吸器
1. 気管支鏡下生検材料
細胞診用にスライドガラスに捺印後、番号を付した濾紙に張り付け、検体ビンに入れて下さい。その際、挫滅しないよう注意して下さい。
次に記載する方法が一番適切でありますが、上記の方法で構いません〔生食に、浮遊させて下さい。
生食ごと注射筒に入れ、何回も陰圧をかけて、充分ふくらませて下さい。培養が必要な場合は細胞診検体採取を割愛し、
無菌的に操作してふくらませる時に使用した生食を培養して下さい。気管支壁のみの生検で、肺胞領域が含まれない検体は陰圧をかける操作は割愛して下さい。
小さい検体ですので紛失に注意して下さい。検体毎に別のビンに入れて固定し、番号或いは採取部位を必ず明記して下さい。〕
2. 胸腔鏡下切除材料
挫滅に注意して下さい。元の形状がわかる様充分広い標本ビンを使用して下さい。切除断端を明瞭にしておいて下さい。
なるべく腫瘤病変に割を入れないでください。どうしてでも割を入れたい場合は、病理医にご連絡してください。
止むを得なく病変に割を入れた時は内容の性状を記載して下さい。また固定の際に割面が膨らみますので、
割面に濾紙を張り付け割面を下にしてゴム板に張り付けて下さい。嚢胞内面をガーゼで擦ったり水をかけたりしないで下さい。
3. 開胸肺生検及び楔状肺切除標本
ステイプラーをつけたままツベルクリン針等細い注射針を用いてフォルマリン液を注入後フォルマリン液に浸し固定して下さい。
その際、針先の位置を変えながら静かに注入して下さい。瀰漫性肺疾患等の生検材料では、充分ふくらんだら、フォルマリン液に30分程度浸した後、
ステイプラーで縮んだ部分に注射針を用いてふくらませて下さい。
4. 全肺及び肺葉切除標本
リンパ節を採取し部位別にビンに入れて提出して下さい。切除後速やかに血管の結紮糸をはずし余分な血液を排出させて下さい。
結紮糸をはずす時になるべく血管を損傷させないように注意して下さい。経気管支的にフォルマリン液を注入し肺をふくらませて下さい。
腫瘍の為、フォルマリン液の入りが不充分な区域には、開胸生検材料同様、注射針を使用して各領域が充分ふくらむようにして下さい。
こころもち過膨脹気味に注入したら固定槽に肺門部が下になるよう浮遊させて下さい。また、肺や腫瘍に割を入れないでください。
どうしてでも割を入れたい場合は、病理医にご連絡してください。止むを得なく病変に割を入れた時は内容の性状を記載して下さい。
また固定の際に割面が膨らみますので、綺麗に割面を合わせ開かないように針等を使い動かないように固定し、
固定液に臓器すべて漬かるように浮遊させてください。
5. 喉頭摘出材料
後方から気道内腔が見やすいように開いて固定して下さい。
D. 乳腺
1. 病変部の核出材料
割はなるべく入れないで下さい。割を入れる際は、病理医に連絡ください。切除辺縁の検索が充分行える様にしてゴム板に無錆針で張り付けて下さい。
2. 1/4切除、部分切除の標本
Orientationがつく様に適宜マーキングしておいて下さい。特に乳頭側には糸をかけておかれると便利です。
割を入れる場合は、後の病理検索で領域が解るように割を入れてください。また固定の際に割面が膨らみますので、
綺麗に割面を合わせ開かないように針等を使い動かないように固定し、固定液に臓器すべて漬かるように浮遊させてください。
固定の際は折れ曲がらない様充分広い固定槽に入れて下さい。
3. 乳房切除標本
割を入れる場合は、後の病理検索で領域が解るように割を入れてください。また固定の際に割面が膨らみますので、
綺麗に割面を合わせ開かないように針等を使い動かないように固定し、固定液に臓器すべて漬かるように浮遊させてください。
脂肪組織が多いため固定不良になり易い臓器です。病理で点滴セットを用いて緩徐に組織内にフォルマリン液を注入しますので速やかに提出して下さい。
腋窩方向を、糸でマーキングするなりして明瞭にしておいて下さい。
E. 甲状腺
切除範囲を記載し切除断端、剥離部がわかる様にして下さい。組織摘出の際に、病理医までお知らせください。腫瘍に割を入れないでください。
止むを得なく病変に割を入れ、固定の際に割面が膨らみますので、綺麗に割面を合わせ開かないように針等を使い動かないように固定し、
固定液に臓器すべて漬かるように浮遊させてください。組織が曲がらない様に充分量のフォルマリン液に浸して下さい。
F. 腎・泌尿器疾患
1. 経皮的腎生検
電顕材料、蛍光抗体用材料を切り分けて下さい。フォルマリン固定材料は曲がらない様注意して下さい。
2. 前立腺針生検
採取部位をスケッチにて番号を記載し、濾紙に貼り付け採取部位ごとに番号を記入した小瓶に充分量のフォルマリン液に浸して提出して下さい。
あまり曲がらない様注意して下さい。
3. 経尿道的切除材料
生検は採取部位を明記したビンに入れて固定して下さい。その他piece-by-pieceに採取されたものは充分なフォルマリン液に浸して全量提出して下さい。
4. 前立腺核出材料
前方より尿道を開いて下さい。精丘を中心とした屈曲がなるべく水平になる様にして張り付けて下さい。(前立腺癌取扱規約参照)
5. 腎摘標本
腎癌取扱い規約に則って腎盂を前後に二分する割を入れて下さい。尿道が屈曲しないよう注意して下さい。腎静脈を明瞭にしておいて下さい。
6. 膀胱摘除標本
部分切除の時は断端部、方向がわかる様にしてゴム板に無錆針を使って張り付けて下さい。
全摘の場合は、尿道断端より尿道前壁、膀胱前壁を正中線に沿って頂部まで開き、次に左右の尿管に沿って尿管口から尿管と共に膀胱壁を切り開き、
部分切除材料同様張り付けて下さい。腫瘍部を通る割線は避けて下さい。移行上皮は剥離しやすいので粘膜面はなるべく触れない様、
また擦りあわない様注意して下さい。特に上皮内癌は細心の注意が必要です。
G. 産科・婦人科材料
依頼書には通常の必要記載事項の他、月経周期を必ず記載して下さい。
1. コルポスコピー下生検
採取部位別にビンに入れて固定して下さい。ポリープは曲がらない様にして下さい。
2. 内膜生検
充分量のフォルマリン液に浸して固定して下さい。不妊患者の日付診か悪性腫瘍の生検か依頼書に明記して下さい。
3. 子宮腟部円錐切除標本
0時方向に糸でマーキングし曲がらない様充分量のフォルマリン液に浸して下さい。或いは0時方向で切り開いてゴム板に張って下さい。
4. 子宮切除標本
前壁側を子宮腟部から底部に至る割を入れ、底部でY字型に切り開いて下さい。その際、後壁側の粘膜に傷をつけないで下さい。
悪性腫瘍の場合は内腔をよく開き、靭帯の切除断端がわかる様にして下さい。開いてゴム板に張るのも一法です。
大きな筋腫がある場合は適宜割を入れて、固定がよくなる様にして下さい。経腟的に摘出する際に頚部から体部にかけて割を入れてください。
5. 卵巣腫瘍
大きな腫瘍は適宜割を入れて固定がよくなる様留意して下さい。膿疱性の時にはその内容の性状を記載して下さい。
内面をあまり擦らない様にしてガーゼ等をつめて元の形状がわかる様に固定して下さい。操作時に被膜を人為的に損傷した時はそれを明記して下さい。
対側卵巣の楔状切除の標本や郭清したリンパ節は部位別にビンに入れて提出して下さい。
6. 胎盤
流産でキュレットした材料はできる限り全量を充分量のフォルマリン液に浸して提出して下さい。娩出された胎盤は羊膜が剥がれない様にして、
また曲がらない様に大きな固定槽に入れて下さい。死産児の扱いは原則として剖検扱いになります。不明な点は病理にお問い合わせ下さい。
H. 整形外科的材料
1. 腫瘍は固定がよくなる様適宜割を入れて下さい。その際、断端部のorientationを付けて下さい。
2.四肢切断材料で組織学的検索が必要な時は、血管切除端からフォルマリン液を注入し大きな固定槽に入れて固定して下さい。
I.神経・骨格筋系材料
1. 神経生検・筋生検
採取時に特殊な操作が必要です。神経内科に御相談下さい。
2. 腫瘍核出材料
全体が採取されたときは切除端がわかるようにして下さい。大きなものには適宜割を入れて下さい。
piece-by-pieceに採取されたものは、充分量のフォルマリン液に浸して固定し全量提出して下さい。
3. 脳部分切除
割は入れないで下さい。大きな固定槽に浮遊させて速やかに提出して下さい。
J.リンパ節腫瘤
診断に支障をきたす場合が有りますので、割を入れたり固定したりしないでください。また、摘出前に病理医に連絡ください。
K.その他小外科的手術材料
Orientationをつけて充分量のフォルマリン液に浸して全量摘出して下さい。
皮膚等で蛍光抗体法が必要な時や特殊な検体で電顕検索が必要と思われる時には採取時その旨病理にお申し出下さい。
3.迅速診断
術中迅速診断は前日までに規定の依頼書に必要事項を記載して病理検査室に提出して下さい。
病理医は過酷な条件下での診断を迫られます。なるべく詳しい情報を記載して下さい。過去の病理組織の有無も必ずお知らせ下さい。
緊急手術、或いは予定手術であっても術中の予期せぬ所見により迅速診断の必要が生じたら予約がなくても行います。
この場合も可能な限り詳しい情報をお知らせ下さい。脂肪の多い組織や石灰化したもの、骨組織は標本が出来ない場合がありますのであらかじめ御了承下さい。
当日は採取後速やかに未固定のまま提出して下さい。その際、術中所見をメモ程度に知らせて貰うと便利です。
他に検体の有無にかかわらず必ず組織検査依頼書を後日提出して下さい。細胞診の検体がある時には、細胞診依頼書も提出して下さい。
迅速診断が不要になったらその時点で病理まで知らせて下さい。迅速診断で固定前に割を入れると永久標本作製に支障がでる事もあることを銘記し
徒に迅速診断依頼をしないようにして下さい。また迅速診断は最終病理診断ではない点、御理解下さい。
4. 細胞診検査
細胞診は患者に対する侵襲も少なく、手軽に行える検査でありながら、腫瘍の検索方法の一つとして、その診断精度も比較的高く、有用な検査法の一つです。
当院でもこの数年飛躍的な検体増を見ています。近年では腫瘍の診断にとどまらず、炎症性疾患にも応用が進んでおりその重要性は
ますます高まってきていると考えます。依頼書は組織診断同様重要な情報源です。記載事項は漏れなく記載しその他重要な臨床事項は必ず記載して下さい。
関連する過去の病理検体がある場合も必ず記載して下さい。擦過(剥離)、捺印、穿刺吸引、体腔液等検体の種類により、処理方法が若干異なります。
固定方法はアルコール固定、乾燥固定の2種類です。不明の時は臨床病理科(5255)まで問い合わせて下さい。診断は悪性腫瘍診断の立場から5段階別評価をし、
必要に応じて医師のコメントを記載しています。意味を充分理解し誤釈のない様注意して下さい。
・;Absence of atypical cells
・;Atypical cells but no evidence of malignancy
・a ;Borderline atypical cells but relatively benign in impression
(・;Borderline atypical cells)
・b;Borderlline atypical cells but relatively malignant in impression
・;Strongly suggestive of malignancy but not conclusive for malignancy
・;Conclusiive for malignancy
婦人科腟細胞診では日本母性保護医協会に従い ・a;mild dysplasia ・;moderate dysplasia ・b;sever dysplasia となり
更に悪性でも carcinoma in situはClass ・となります。また、臨床細胞学会富山県支部(富山県内の産婦人科、病理学会申し合わせ済み)申し合わせにより、
・ga;頸部腺系のreactive changeを含むAtypical cells ・gb;頸部腺系glundular dysplasia~adenocarcinoma in situとなります。
A、婦人科
検体は擦過後 或いは吸引後(子宮頸癌、子宮体部癌取扱規約参照)大きなむらができないようスライドガラスに塗付し、
乾燥させないよう速やかに95%アルコール固定液に浸して下さい。
スクリーニングの検体は必ず月経周期を記載して下さい。生理中の検体採取はなるべく避けて下さい。
スクリーニング以外の場合、内診上、コルポスコピー上等で異常所見がある場合、maturetion indexをとる場合等はその旨必ず明記して下さい。
B、喀痰
生痰と蓄痰があります。
生痰は、1回痰で容器に固定液が入っていませんので、採取毎に速やかに病理に提出してください。連続3日間行うのが原則です。
蓄痰は、容器内に粘液溶解剤や固定液が入っています。3日間採取するか、容器の線まで貯まれば病理まで提出してください。
また『採取毎に良く容器を振って混和する事』や『容器内に粘液溶解剤や固定液が入っていますので、患者が誤飲しないよう』に指導してください。
喀痰と唾液は異なることを充分説明するとともに痰の出し方を指導して下さい。細胞診上、細胞があればclass分類を行っていますが、
必ず報告書にて喀痰が含まれた検体であるか確認して下さい。
C、気管支鏡
生検組織の捺印、ブラッシング、洗浄液と数種類の検体があります。
1、生検組織の捺印
採取された組織を挫滅させない様スライドガラス上に軽く叩打し、決してガラス上に擦り付けないで下さい。
2、ブラッシング
ブラシをガラス上で転がすか或いは軽く弾いてガラス上に叩き付けて下さい。
3、洗浄液
回収された洗浄液はBALF分析を別にした後全量にヘパリンを適当量加えて提出して下さい。
D、体腔液
生化学の分析用の検体を別にした後、ヘパリンを適当量加え全量提出して下さい。採取後、速やかに提出して下さい。
提出まで時間を要する時や時間外に採取された時は4℃程度に冷蔵保存しておいて下さい。
E、穿刺吸引細胞診(Fine needle aspiration cytology,Aspiration biopsy cytology)
注射針を刺せる部位であれば原則的にどこでも可能です。侵襲が少なく、近年その診断的価値が急速に向上している手技の一つで気軽に提出して下さい。
穿刺針が病巣部に到達後、強く陰圧をかけ、針先を支障のない程度に前後させて下さい。
穿刺したまま静かに陰圧を解除して抜去し速やかに検体処理を行って下さい。針をシリンジからはずしピストンを引いておき再度穿刺した針を付けて、
スライドガラス上にシリンジを使って強く針の内容を吹き付けて下さい。ガラスに吹き付けたら、
もう一枚のガラスをかぶせ二枚のガラス間で擦り合わせて細胞を進展させて下さい。或いは、他のスライドガラスの辺縁を使って引き伸ばし
数枚の標本を作成して下さい。乾燥させないよう速やかに固定槽に入れると共に、乾燥固定用の検体は軽く振って素早く乾燥させて下さい。
一人で以上の操作を行うのは困難と思われます。細胞診検査室(5255)に連絡して当科技師の立会をお勧めします。
リンパ節の細胞や、小細胞癌等は挫滅しやすいのでガラス間の擦り合わせはしないで下さい。
F、脳・脊髄液
末梢血の混入に注意して下さい。また手袋の粉が混入しやすいので注意して下さい。検体の扱いは、体腔液の処理方法に準じて下さい。
G、肝・胆・膵系細胞診
これから診断的価値・重要性が高まる分野と考えられます。
1.PTCD,PTGBD
胆汁中の細胞は変性しやすいので、早急に氷冷しヘパリンを加えて提出して下さい。細胞の回収が難しいので大量に、また頻回の検査をお勧めします。
2.ERCP
ブラッシングは気管支鏡と同様に、採取液は上記と同様にして下さい。採取液は造影前のものが望ましいですが、造影後でも可能です。
H、泌尿器系
1. 自然尿・膀胱洗浄液・腎盂尿
できるだけ多くの量を提出してください。
2. 尿管ブラッシング
気管支鏡のブラッシングに準じて下さい。
3. 前立腺穿刺吸引細胞診
他の穿刺吸引細胞診と同様です。
I、術中・迅速細胞診検査について
術中細胞診は組織の術中迅速診断に準じます。迅速診断は染色方法等は通常の方法とほぼ同様ですが、やや染色性が落ち、質の高い標本作成が困難になります。
なるべくは通常方法による診断を行って下さい。また、迅速診断が入ることにより通常の業務が中断されます。
この点にも留意し徒に迅速診断の依頼はしない様にして下さい。
5.病理診断の公表について
病理診断の公表については臨床病理科に事前に御相談下さい。公表とは学会発表、論文執筆も含まれます。
学会発表については抄録の下書きを添えて診断報告者の了解を得た後、協議して下さい。写真撮影や文献の検討等の都合を考慮し時間的余裕をもって下さい。
(剖検材料は概ね1.5カ月、生検手術材料は概ね1カ月をみて下さい。)発表終了後必ず事後の報告をして下さい。口頭で結構です。
投稿に際してもその旨を説明し了解を得、協議して下さい。共同演者、共著者に載せるかは当事者と協議して下さい。
他施設との協同研究のため当院標本(配布標本を含みます)を持ち出すときにもその研究内容を
明示して病理の許可、担当者の了解を貰って下さい。標本の管理は責任を持って御願いします。他施設へコンサルトするときは先方施設名、医師名、
コンサルトの内容を病理に知らせ、了解を得て下さい。コンサルトに対する回答は後日、類似症例において重要な参考資料になると同時に
コンサルト例の訂正診断書が必要になった場合の根拠となりますので必ず文書にして病理に保存して下さい。可能ならば回答者の署名付きのものが望ましいです。
以上のことが守られない場合、当該科に対する以後の協力ができなくなる場合もあり得ることも併せて御了承下さい。
6.その他
早めに診断書が必要な時はその旨御申し出下さい。尚、至急の要請のあるものについては、現在無条件に応じていますが、
その為に他の通常業務が後回しになっていることに留意して、至急の要請は充分吟味の上、行って下さい。
診断内容に関する疑問等の問い合わせは遠慮なく御申し出下さい。臨床医と当科医師の密なディスカッションが病理診断レベル向上、
誤診防止の道となることを御理解下さい。